やっぱり『ダメ』って言えばよかった
でも、『ダメ』って言ったとしても・・・
どうかな・・・
この状況はあまり変わらなかったかもしれない
−−− バレンタイン クッキング −−−
「リョーマくん 送ってくれてありがとう それじゃあ・・・」
「ね ・・・ あしたさ、・・・俺んちこない?」
明日は、珍しく放課後の部活動が休みである
リョーマが、恋人であるを独り占めしたい
そう思って誘うのは半ば当然の思い故の事であった
一方のはというと・・・
愛しい恋人からの突然の誘いともあれば、
普段であれば、何を置いても最優先であるのだが・・・
「ごめんね リョーマくん 明日はね・・・」
少し困った顔をする恋人に、リョーマは顔を顰めて、
「ちぇっ・・・どうせ、『あさっての準備で忙しい』とか言うんでしょ」
の言葉の続きの奪うのだった
「どうしてっ・・・」
「当然でしょ・・・」
『の考えていることなど、次の台詞なんて、お見通し』
とでも言うように、リョーマは、を強い眼差しで見据えた
『マネージャーの務め』 だってこともわかってる
用意するソレが、『義理』だってことも・・・
そして、義理とは言え、僅かな時間であっても、
他の男の事等考て欲しくない なんて言うのは 俺の我侭だってことも
「・・・ね 絶対に邪魔しないからさ・・・」
貴重な時間
だからこそ、一緒にいたい
「〜〜〜〜っ・・・」
そんな思いは、にとっても同じである
だからこそ、リョーマの言葉に、が『誘い』を断ることに躊躇していると・・・
「じゃ、俺、帰るね 明日 そっちに行くから・・・」
の頬に小さなキスを残して、リョーマは走り去っていくのであった
「あ、ちょっと待って リョーマくんっ 私、まだ、良いって 言ってな・・・」
が言い終わらぬウチに、リョーマは振り返ること無く、
左手を掲げてすぐ先に見える角を曲がってしまい、その姿は見えなくなってしまうのであった
「・・・ったく リョーマくんは ホント我侭なんだから」
我侭で、生意気で、だけどどこか可愛くて・・・
は右頬に冷気に晒され冷たくなった手を押し当てて、
微かに伝ったリョーマの唇の感触を思い起こし
生意気で愛しい恋人を思って、幸せそうに、微笑むのであった
「リョ、リョーマくんっ 邪魔しないって言ったでしょ」
「俺、そんな事 言ったっけ?」
昨日の台詞はどこへやら・・・
翌日の放課後、約束どおり、リョーマはの家の台所にいた
「これじゃあ、混ぜられないっ」
制服に白いエプロンを纏ったは、
右手にはヘラ そして左手で湯煎にかけたボールを固定して、
ぎこちない手つきで混ぜながら、前日に刻んだであろうチョコを溶かしていた
「どうして? 両手は使えるでしょ だから、『邪魔』はしてないよね・・・」
リョーマは、先ほど焼き終えたクッキーのコーティングする為の
チョコレートをテンパリングし始めたの腰に纏わりながら、意地悪げに台詞を吐く
確かに、両手は自由に扱える
しかし、この先続く、テンパリングの最中
ずっとこの体勢を維持しないといけないのであれば・・・
非常に問題があるわけで
「ね、リョーマくん 手離してくれないかな・・・
冷凍庫から 出したいものがあるの ね? お願い・・・」
テンパリングを終えたチョコの中にクッキーを漬け込み終えたが、
リョーマの右手に左手を添えて、背後に纏わりつくリョーマに首を右に向けて語りかけるも、
「ヤダ・・・」
空しいまでの断りが、の右耳のウチに響いた
しかし、それは、とても甘い甘い囁きで・・・
のカラダのチカラを抜き取るには十分過ぎるものであった
『っ・・・』
その上、リョーマは、の耳朶をチロリと舐め上げて、次なる行動を遮ろうとする
「痛っ」
しかし、は、そんな衝動に負けそうになりながらも、
ヘラから手を離し、『リョーマくんのHっ』と小さな声で言った後、
腰に纏わりつくリョーマの左手をギュっと抓るのだった
その隙にチカラの抜けたリョーマの腕の中から這い出たは・・・
「邪魔するんだったら、帰りなさい!」
キッと睨み上げて叱咤するのであった
「・・・ごめんなさい」
は、一度怒りだすとなかなか収まりを見せない性質である
短い年月とはいえ、付き合いを重ねてきたリョーマでも十分承知していることである
それ故、リョーマは素直なフリして謝るしかなかった
もちろんそれは、がそういう自分にはめっぽう弱いということを承知の上でのことであるのだが・・・
「・・・ ごめんね リョーマくん
もう少しで終わるから だからここで座って待っててね」
は、さすがに、少し申し訳ないと思ったのか
おもちゃを取り上げられて機嫌を損ねた子供をあやすようにとびっきりの笑顔をリョーマに向けた
そうして、椅子に座るリョーマの髪をくしゃりとかき撫でた後、冷凍庫から目的の物を取り出すのであった
「・・・硬いっ・・・」
「ったく、要領が悪いよね って・・・」
「だって、コレ、カチカチなんだもん
それに元はと言えばリョーマくんのせいなんだからっ!」
暫く程、おとなしく椅子に座っていたリョーマだったが、
まな板の上で悪戦苦闘をしているに 痺れを切らしたのか、の背後に歩み寄るのであった
は、先ほど冷凍庫から取り出したアイスボックスクッキーの種を刻んでいた
それは、冷凍庫で、約1日以上かけて固められた
直径5MC、長さ約10CMほどの棒状のクッキーの生地を、輪切りにする作業である
これらの生地は、先の休日にが1日かけて作ったものであった
アイスボックスクッキーは長期保存が可能である為、
は、常日頃から、かなりの量の生地を纏めて作っては、必要な量だけ輪切りにして焼いていた
それらは、主に部活の差し入れ・友人のBirthday等に活用していた
なぜ、今更、このような作業をがしているのかと言うと、
本来ならば、先ほどテンパリングを終えたチョコにすでに焼き終えたクッキーを漬け込めば、作業完了のはずであった
しかし、の見ていない処で、リョーマが度重なる味見を繰り返したせいで
数が足りなくなってしまった為、余分に作っていたストック生地を使う羽目になったのであった
「あっ・・・だめぇ」
「・・・ねぇ 俺 もう、限界 コレは俺が手伝うからさ・・・
が、そっちの刻み終わったのを焼く準備すれば その方が早く済むし」
リョーマは、が手にもつ包丁を奪いとった後、硬い生地を刻んでいくのであった
台所には、トントンと生地を刻む こぎみ良いリズムが流れる
それは、悪戦苦闘の上、先ほどまでが行っていたモノとは比べ物にならない程、安定したリズムであった
リョーマのチカラ故なのか、それとも要領のよさなのかは分からないが、
は、その姿に、ちょっぴり悔しい思いを抱きながらも
オーブンの板にリョーマが刻んだクッキーを順に並べていくのであった
「ありがと リョーマくん!
リョーマくんのおかげで、思ったよりも早く出来ちゃった」
最後のクッキー生地をオーブンに投入した後、が笑顔でリョーマに言うと
リョーマは無言のまま、左手をの腰に巻きつけて抱きよせた
「きゃっ・・・」
「俺、ものすごく我慢してたんだよね だからさ・・・」
リョーマは、耳のウチで甘く囁きながら、右手での髪を梳いていく
「リョ、リョーマくん まだクッキー全部 焼けてないからぁっ・・・」
「・・・5分もあれば十分」
オーブントースターの残り表示時間を一瞬見たリョーマは、
完成したクッキーの山からハート型のモノを選び、の口元に差し出すのであった
「もう、味見はさっきいっぱいしたでしょう・・・
私はもういらないっ だって、これ以上食べたら太っちゃうから・・・」
『ヤダ』という言葉は、もう続くことはなかった
「・・・はぁ」
甘い香りが鼻先を擽る
「もう少しで、焼けるね」
唇を開放したリョーマがオーブントースターを見ると、残り時間の表示は、1分を切っていた
「・・・っ」
くすりと笑みを浮かべるリョーマに、は悔しそうにして唇をかみ締めた
は先ほどまでの行為で、頬が火照り、真っ赤になっていた
しかし、リョーマの表情は何ひとつかわっていない上、そんなを余裕の表情で見ているのである
それが、余計にの頬を赤く染めあげる結果となっていたのだった
「あのさ、痩せる必要なんてないと思うけど・・・
特にこの辺とか、もう少しあった方がいいしね・・・」
「ど、何処触ってるのよっ リョーマくんのHっ」
胸の上に置かれたリョーマの手をバシリと薙ぎ払ったが、唇をキュっと結んで睨み上げると
「ま、ダイエットしたいんだったら、俺が責任もって付き合うからさ・・・」
リョーマは、を腕の中にギュっと閉じ込めて、意味ありげに背を撫で廻すのであった
「リョーマくんのバカっ・・・離してってばぁ」
「ヤダ もうすぐ焼けるでしょ それまでは離さない」
は、鼻先を擽る甘い香りとリョーマの温もりに蕩けそうになりながらも
リョーマの向こうに見えるオーブントースターが刻む残り時間のデジタル表示を見ていた
END
=========================
バレンタインアンケート1位&キリリク66666番神威山さんのリクエストで書かせて頂きました。
リョマVSとのことだったのですが、
リョマONLYでもOKと言うことでしたので、このようなお話にしてしまいました。
様。最後まで読んでくださって有難うございました。